【相談事例】「全財産を愛人に遺贈する」という遺言書が見つかりました。私たち家族は実家から追い出されてしまうのでしょうか?
お住まい:兵庫県姫路市青山
状況:
先日、夫が病気で急死しました。遺品を整理していたところ、公証役場で作られた「公正証書遺言」が見つかりました。
中身を確認して言葉を失いました。そこには「自分が所有する不動産(現在私と子どもが住んでいる実家)およびすべての預貯金を、〇〇〇〇(愛人と思われる女性)に遺贈する」と書かれていたのです。
長年連れ添い、一緒に家を守ってきたのに、突然現れた知らない女性にすべてを奪われるのかと思うと夜も眠れません。遺言書がある以上、私たち家族は一銭も受け取れず、この家からもすぐに出て行かなければならないのでしょうか?
司法書士からの回答・解説
大変ショッキングな出来事で、ご不安でいっぱいのこととお察しいたします。
まず結論から申し上げますと、ご家族(ご相談者様とお子様)が一切の財産を受け取れず泣き寝入りしなければならない、ということはありません。法律は残されたご家族の生活を守るための強力な権利を用意しています。
確かに、「全財産を愛人に譲る」という遺言書であっても、法的な形式が整っていれば、遺言自体は有効として扱われます。したがって、実家(不動産)の所有権や預貯金は、原則として遺言通りにその女性へ移ることになります。
しかし、だからといって残されたご家族の権利が完全に失われるわけではありません。ここで重要になるのが「遺留分(いりゅうぶん)」という制度です。
遺留分とは、配偶者や子どもといった一定の法定相続人に、法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。どんなに理不尽な遺言書があったとしても、この「遺留分」を奪うことはできません。
今回のケースでは、ご相談者様(妻)とお子様には、本来の法定相続分のさらに半分に相当する財産を「遺留分」として確保する権利があります。
具体的な解決策:「遺留分侵害額請求」を行う
遺言によってご自身の遺留分が侵害されている場合、財産を受け取った相手方(今回は愛人の女性)に対して、「侵害された遺留分に相当するお金を払いなさい」と請求することができます。これを「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」と呼びます。
実家からすぐに追い出されるのか?
現在の法律(令和元年の民法改正後)では、遺留分を請求する権利は「現物の不動産を取り戻す権利」ではなく、「金銭(お金)を請求する権利」となっています。そのため、法律上は実家の所有権はその女性に移ってしまい、女性から「家を明け渡してほしい」と要求されるリスクがあるのは事実です。
しかし、相手の女性が「遺留分に相当する多額の現金(代償金)」をすぐに用意してあなた方に支払えるケースは稀です。そのため、実際の話し合いや法的手続きの中では、以下のような交渉を行っていくことになります。
- 女性が遺留分相当の現金を払えない代わりに、実家の所有権をこちらに譲らせる(代物弁済)
- 実家を売却し、その代金から遺留分相当額を確実に回収する
【重要】遺留分の請求には厳しい「期限」があります
一番注意しなければならないのは、この遺留分侵害額請求には「遺言(遺留分の侵害)があったことを知った時から1年以内」という非常に短い期限(時効)があることです。この期間内に、相手方に対して「遺留分を請求する」という明確な意思表示(通常は配達証明付きの内容証明郵便などを使用)をしなければ、権利が消滅してしまいます。
このようなケースでは、相手方と直接話し合うことは精神的にも非常に困難であり、法的な知識に基づく冷静な対応が必要です。
「遺言書が見つかったけれど納得がいかない」「遺留分を請求したいが期限が迫っている」という場合は、決して放置せず、一刻も早く当事務所にご相談ください。必要に応じて信頼できる弁護士とも連携しながら、ご家族の権利と生活を守るための最善のサポートをいたします。

